FP事務所のんだら舎のブログ

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『保険金は先妻へ』なんて…アリ?

 安定度抜群の怠惰な企画。万年法律資格受験生「だんな」と、場末のこれでも1級FPでナンノ*1の大ファン「わたし」のいつもの駄弁りです。

 

 (とある冬の公園。吹き荒ぶ木枯らしの中、お酒をあけながらベンチで二人)

だんな:うちの女房の友達でさ、夫が死んだんだよ。

わたし:(缶酎ハイを一口)へぇ~。

だんな:これが遺言書なんか書いていてね、夫が。

わたし:随分と財産あったんですか?

だんな:んなもんあるわけないだろう。女房の友達の夫だよ、たかがしれてるよ。

わたし:(木枯らしが吹く{{ (>_<) }})で、内容でもアレだったんですか?

だんな:まぁ、そういうことなんだよ。

わたし:隠し子に全部やる…とか。

だんな:否、そうじゃないんだよ。保険なんだよ、保険。

わたし:保険?

だんな:あんた妙に保険のこと詳しいだろ、だからさ。

わたし:妙に…って…本業でしたからね。で、保険がどうしたんですか?

だんな:「保険金の受取人を先妻に変更する」って書いてあるんだとさ。

わたし:なるほど。

だんな:なるほど、じゃないよ(`Δ´)!。おかしいだろ。

わたし:心情的にですか?

だんな:そうじゃないよ、バカ。遺言で保険金の受取人を変えるなんてことだよ。

わたし:(酎ハイが空になって缶を振りながら)いいんじゃないですか。

だんな:そんなことできるの?

わたし:できますよ。

だんな:え~っΣ(゚д゚lll)

 

【解説】

 保険法には以下のように明示されています。

(遺言による保険金受取人の変更)

第44条 保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。
2 遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。

 

だんな:じゃああれだ。女房の友達は保険金を先妻にやらなきゃいかんのかね?

わたし:保険金はいまどうなってるのですか?

だんな:なんでも契約上での受取人は自分(だんなの奥様の友達)だったから、保険会社から保険金は貰っているんだとさ。

わたし:その友達が?

だんな:そのようだね。

わたし:で、そのあとに遺言書が出てきたと。

だんな:なんでも遺言書を書いていたのを判らんで、後々調べてあったそうだ。

わたし:遺言書は、自宅から?

だんな:公証役場って聞いたかなぁ。公正証書遺言だったんじゃないか。

わたし:じゃあ後の日付の遺言書を偽造して前の遺言書の無効を主張するとかどうですかね。そういう人結構いますよ、いいか悪いかは別にして。

だんな:んなこと出来るわけないだろう、バカかよあんたは。

わたし:でしょうね。

だんな:付言事項*2で「先妻には子もなく一人暮らしで生活も苦しいのでせめて保険金は残してやりたい」とあったみたいだね。

わたし:付言事項まであったんですか…。嫌なら遺言書の無効を申し立てるくらいしかないですけど、それもなんとなく無理そうですね。

だんな:それより最初の話になるけど、女房の友達は受け取った保険金を先妻にやらなきゃいかんのかね?

わたし:酎ハイがきれちゃいましたね……(。-_-。)。

 
【解説】
 前段に紹介した保険法44条1項により、保険金の受取人変更は遺言でできることが判ります。
 では、44条2項の『遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。』の定めはどう解釈されているのでしょうか。
 「遺言が効力を生じた後」とはつまり、保険契約者の死亡です。保険契約者の死亡後、保険契約者の相続人がそのことを保険者(保険会社)に通知しなければ、保険者が保険契約上の変更前の受取人からの請求によって保険金を支払ったとしても、保険会社は責めを負わないことになっています。
 これは保険法が旧商法の一部であり、商法の最大の特徴である『迅速性』に起因していると言えます。保険会社から支払われる保険金の利点は、保険会社への請求から数日以内に支払いが行われるということです。この「現金化の迅速性」は保険が相続対策に利用される理由にもなっています。

  実務上でも、請求者の善意・悪意を問わず、受取人の変更通知の前に既に保険証券上の受取人が保険金を受け取っているというケースはあることです。

 今回のケースは、遺言書が無効ということでもなければ、遺言による保険金の受取人変更が有効とされる以上、残念ながらだんなの奥様の友達は保険金を受け取る権利はないことになりそうです。

 

だんな:まあ女房にはあんたの話を伝えておくよ。

わたし:残念ですが…

だんな:それより、気になることがあるんだよ。

わたし:なんです。お酒がきれたことですか?

だんな:それはあんただろう。俺はワンカップがまだあるよ。

わたし:気になることって?

だんな:女房の友達が保険金をもらってるんだろ。これを先妻に渡したら『贈与税』が発生するんじゃないのか?

わたし:贈与税の話が好きですね(;´д`)…それはですね…

gyouseifp.hatenablog.com

 

【解説】

  相続税法上では、生命保険の非課税の規定について(500万円×法定相続人の数)ありますが、この非課税の適用が受けられるのは相続人についてです。今回のケースの先妻は適用できません。

 では保険金受取人変更の課税関係です。だんなの疑問も当然といえば当然です。そもそも相続税法上の「保険金受取人」とは、保険証券に記載があり実際に保険金を受け取っただんなの奥様の友達なのか、後に見つかった遺言書にある実際に保険金を受け取るべき地位にある先妻なのか、です。

(「保険金受取人」の意義)

3-11 法第3条第1項第1号に規定する「保険金受取人」とは、その保険契約に係る保険約款等の規定に基づいて保険事故の発生により保険金を受け取る権利を有する者(以下3-12において「保険契約上の保険金受取人」という。)をいうものとする。(昭46直審(資)6、昭57直資2-177改正)

(保険金受取人の実質判定)

3-12 保険契約上の保険金受取人以外の者が現実に保険金を取得している場合において、保険金受取人の変更の手続がなされていなかったことにつきやむを得ない事情があると認められる場合など、現実に保険金を取得した者がその保険金を取得することについて相当な理由があると認められるときは、3-11にかかわらず、その者を法第三条第1項第1号に規定する保険金受取人とするものとする。(昭57直資2-177追加)

 ※出所「相続税法基本通達」より

 
第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において・・・(以下中略)・・・であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分
 つまり、遺言書が有効ということであれば、税務においても実質的な保険金受取人は先妻ということになります。
 ちなみに『法第三条第1項第1号に規定する保険金受取人とする』という意味は、「保険金は本来の相続財産ではないが、相続税法上計算に入れる財産とみなす」という規定です。
 
 今回のだんなの奥さんの友達のケースでは、
  • 先妻は相続人でないので、非課税適用なし。
  • 先妻が、だんなの奥さんの友達から受け取る保険金は、相続税対象となる。
  • 先妻に渡すことになる保険金は、贈与税の対象ではない
  • 先妻はすでに配偶者でないことから、相続税は2割加算となる。
ということになります。
 
 
だんな:あんたほんとうにしょうもないことよく知ってるわ、感心するよ。
わたし:まあ、ということで、寒いし暗くなってきたから帰りましょうか。
だんな:しかしあれだよ、そんな安くて甘い缶酎ハイばかりだと糖尿病になるぞ。
わたし:今のは甘味料使用で「糖類ゼロ」が主流ですから大丈夫です、多分。
 
(おわり)
 
 
【追記】
今回のケースと似ているようでまったく異にする『保険金受取人の続柄欄に「妻」とあるが、既にその者が妻でない場合保険金受取人は誰のものか?』という点で投稿しています。宜しければご覧ください。

*1:南野陽子のこと。代表曲に「吐息でネット」「話しかけたかった」などがある。

*2:遺言書の中で法律に定められていないことを追加的に付言した事項をいう。法律的な効果はないが遺言者の想いを相続人に伝え、円満な相続になることを願い記載される。尤も付言事項があるからといって円満な相続につながっているかは別である。