FP事務所のんだら舎のブログ

たまに脱線アリ。いろいろな情報を楽しく発信していきます!

【改稿】贈与税は誰が払うのか?

 最近、往年の歌手がヒット曲がでずに悩んで、ベストアルバムを出すようなそれと同じで、昔の改稿が続いていますが…。今までの投稿記事で最もアクセス数が多く、皆様より反響が大きかった投稿ですが、私の文章表現が拙く、誤解が生じる点などがありましたので一部手直しをして再掲します。

 【YAHOOブログ  2016/1/6~2016/1/8  シリーズ投稿】はてなぶろぐ 2016/9/30 再掲】

 

 新春一発目。昨年の話で鬼も笑わないでしょうが、こんな一幕がありました。

 だんな:相続税支払いの対策のためにお金を貯めてるんだって。
わたし:相続人が?
だんな:違うよ(`Δ´)!、死ぬほう(被相続人)がだよ。
わたし:じゃあそれも、相続財産になりますよ。
だんな:そんなことないだろう。相続税は、死ぬほうが払うんだろう。ラジオでそう言ってるんだから。
わたし:なにか大きく勘違いしてますよ。誰がそんなこと言ったんですか?
だんな:北島三郎
わたし:えっ・・・・!
だんな:あんな金持ちが相続対策、間違えるわけないだろう。
わたし:贈与税と相続税は、貰った方が申告する義務があるんですよ。
だんな:あんたおかしいんじゃないの?
わたし:そっちこそ間違ってますよ。1級FP技能士と演歌歌手、どっちを信じるんですかヽ(`Д´)ノ
だんな:北島三郎
わたし:(#゚Д゚)y-~~。
 
 笑い話のように思えるのですが、本当のやりとりです。
 これ結構、街頭無料相談などでの質問でも多いんです。
  
 よく医者が来院した患者に『検査の結果異常なしです』といっても、「テレビでそう言って大変なことになったケースがやっていた」と言って信じていただけないとのことです(笑)。大きな病気が見逃されてるのではないかと。
 
  なぜか、専門家より『マスメディア』の情報を疑いなしで信じているんでね。
 うちの両親もそうです。『羽〇慎一のモーニングショー』などの特集を鵜呑みにしてます。
 
 そして後日、「だんな」が、嬉しそうに『判例六法』片手にやってきました。「だんな」は実は、某資格試験の受験生だったのです。
 
 
だんな:おい、この判例、読んでみろよ( ̄ー ̄)ニヤリ。
わたし:なんですか?
                        
【残余財産の錯誤無効】
離婚に伴う財産分与では分与者に課税されることを知らず、かつ、それを当然の前提としてむしろ被分与者に課税されることを案じる会話をしていた等の事情の下では、課税負担の錯誤に関わる分与者の動機は相手方に默示的に表示され、意思表示の内容をなしていたと解すべきであり、分与者は課税に関し錯誤があったものとして財産分与の無効を主張することができる。 (最判平元・9・14)
 
だんな:ほら「分与者」が課税されるんじゃないか( 」´0`)」!やはりサブちゃんは正しかった( *`ω´)。
  
 
わたし:これ税金は税金でも所得税が課せられた有名な話ですよ。
だんな:えっ!所得税だって!贈与税じゃないの?
わたし:つまり「だんな」と同じで、二重に勘違いしているケースなんですよ。
だんな:ワシには、さっぱりわからんよ。説明してくれ。
 
【説明】
 おそらく「だんな」は、この判例を見つけて、離婚する際、妻に「贈与」するケースで、贈与された側(受贈者)が税金を払うと贈与者(男)が勘違いしていて、税務署から「税金を払うのはあなたですよ」と指摘され、税金が払えないので慌てて贈与者が、「贈与はなかったことにしてくれ」と『錯誤無効』を主張した、・・・・まぁこんなふうに考えたのだと思います。そして、やはり贈与者が税金を払うのではないか!と。
 
 まず知識として。民法上、『錯誤』は無効主張ができます
 つまり「勘違いしてたんで、なかったことにしてくれませんか」というのは条件付きでOKということです(過失要件とかがあるけれどここでは省略)。
 
 ただ勘違いにも2つあって、専門的な言葉ですと、『要素の錯誤』『動機の錯誤』に分かれ、このうち『要素の錯誤』が無効主張できるとされてました。『動機の錯誤』については動機が相手に明示されることが要件とされ(そこで初めて『要素の錯誤』となる)、それだけでは無効とはなりません*1判例)。
 
 どのように違うのかというと、乱暴に言うなら、『要素の錯誤』は、似ているものを間違えたようなケース。Aだと思っていたものがBだった。普通Bだったら誰も選ばないよね、みたいな感じです。
 一方『動機の錯誤』は、自分の思惑と実際が違ったというようなケース。駅ができれば、この土地は値上がり間違いなし。購入は今がチャンス!しかし、駅ができるという話は自分の勘違いだった・・・のような感じです。
 
  話が随分とややこしくなってしまいましたが、判例とわたしの話を聞いて、今度「だんな」は、次のように質問してきました。
 
『それじゃ、離婚での慰謝料には税金がかかるの?』
 
 確かに前の記事で紹介した判例を読むと、そのように読み取れます。結論から申し上げますと、『基本、税金はかからないけれど、不動産の時は要注意』ということです。
  
 例で説明します。X男とY女が離婚し、X男がY女に離婚の慰謝料として『1億円』の『A不動産』を譲る約束(契約)をします。その『A不動産』はX男が昔に『2千万円』で購入したものでした。X男は、Y女に「こんなに高い不動産じゃ贈与税かかるよ。君(Y女)大丈夫?」と心配します。X男は、贈与税が受贈者にかかることを知っているからです。
ここで、X男は贈与税の仕組みは判っているが「慰謝料に税金がかかると錯誤している」。
 
 そして、後日、税務署からX男に対し所得税』の申告漏れが指摘されます。
  実は、税法上では、『2千万円』で購入したA不動産を『1億円』で他人に譲渡した場合、その差額『8千万円』に(譲渡)所得税が課せられるのです
  例えでは金額を分かりやすい数字にしましたが、先に紹介した【判例】のケースでは税金額が『1億円』を超えていたのです。
 
X男:こんなことになるとは知らなんだ。税金払えないんで、A不動産を慰謝料として譲渡するのはなかったことにしてくれませんかね・・・・。
 
Y女:もらったものは返すかよ、嫌なこったい!。
 
 そんなこんなで、X男が、「錯誤として無効としてくれませんか」と、裁判を起こしたケースなのです。今一度、前回紹介した、判例を見てみましょう。
 
【財産分与契約の錯誤無効】
離婚に伴う財産分与では分与者に課税されることを知らず、かつ、それを当然の前提としてむしろ被分与者に課税されることを案じる会話をしていた等の事情の下では、課税負担の錯誤に関わる分与者の動機は相手方に默示的に表示され、意思表示の内容をなしていたと解すべきであり、分与者は課税に関し錯誤があったものとして財産分与の無効を主張することができる。(最判平元・9・14)
 
 つまり、『贈与税』における錯誤という点では、正しいのですが「だんな」の主張する、『分与者が贈与税を払う』と関係のないものなのです。
 
 
判例のケースを整理すると、
  • 離婚時不動産を贈与することで、相手に贈与税がかかると誤解している。離婚時の財産分与には原則、贈与税は課されない。
  • 実は取得価格より高騰した不動産の譲渡で、利益がでたとみなされ『所得税』が贈与した側に課される(販売であったら現金が手に入るが、離婚等の場合はまったく現金が入らないのでこのようなケースになる)。
  • 「そんな税金の仕組みなど知らなかった」ので、どうか『錯誤』としてくださいと主張。
  • 黙示的に表示され意思表示の内容をなしていたと解し「要素の錯誤」とした。
『要素の錯誤』:無効
『動機の錯誤』:動機が相手に明示されてのみ無効(そのとき『要素の錯誤』になる)
 
 ということです*2
 
 
 バブル景気真っ只中(譲渡時は昭和40年代後半)の、不動産が倍々ゲーム(死語)の頃のおはなしです。今ではこんなこと考えられないですね。
 
 ああそうそう、ちなみにですが、相続税の納税義務者は、ちゃんと相続税法に次のように書いてあるので、こんな場末の与太郎『FP』と、万年受験生の『だんな』の会話など知る由もなく、一目瞭然です。
 
相続税の納税義務者)
第一条の三 次の各号のいずれかに掲げる者は、この法律により、相続税を納める義務がある。
一 相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下同じ。)により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの
二 相続又は遺贈により財産を取得した次に掲げる者であつて、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないもの
イ 日本国籍を有する個人(当該個人又は当該相続若しくは遺贈に係る被相続人(遺贈をした者を含む。以下同じ。)が当該相続又は遺贈に係る相続の開始前五年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたことがある場合に限る。)
ロ 日本国籍を有しない個人(当該相続又は遺贈に係る被相続人が当該相続又は遺贈に係る相続開始の時においてこの法律の施行地に住所を有していた場合に限る。)
三 相続又は遺贈によりこの法律の施行地にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないもの(前号に掲げる者を除く。)
四 贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。以下同じ。)により第二十一条の九第三項の規定の適用を受ける財産を取得した個人(前三号に掲げる者を除く。)
 
だんな:「じゃあ・・・北島三郎のラジオでの発言はなんだったのか・・・」
わたし:・・・・(#゚Д゚)y-~~
 
【完】
 
 
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*1:2020年4月施行予定の民法で95条2項が追加され、いわゆる『動機の錯誤』が明文化され、錯誤無効は「取消」となる

*2:現在の民法95条に『要素に錯誤があったときは無効とする』とあるため。これが改正民法で95条2項が追加され、いわゆる『動機の錯誤』が明文化され、錯誤無効は「取消」となる