FP事務所のんだら舎のブログ

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【改稿】保険と相続税

YAHOOブログ 2016/7/23~2016/7/24 シリーズ投稿 
 はてなぶろぐ 2016/9/30
 
 ブログでも人気のある投稿とそうでない投稿があり、保険ネタは意外に好評、私のプライベートの話は不評・・・と相場が決まっているようです。
 
 日頃の無料相談や個別の相談で、よく受けることが多いわりに本やネットの説明では判りづらくなっている部分のお話を、今日は整理して書きこんでみたいと思います。
 

【疑問】『死亡保険金』は『相続財産』なのか?

 

 以下説明するのは、

 保険契約者:誰でも

 被保険者:被相続人

 保険料負担者:被相続人

 保険金受取人:被保険者以外(相続人を含む)のケースです。

 

  • 保険金受取人が自ら固有の権利として取得するのであって
  • 被相続人から承継取得したものではなく
  • 相続財産に属するものでもない
  つまりは、相続財産じゃないよということです。
  
 また、特別受益(生前に財産を贈与した)として考慮する余地はないのか、という疑問にも判例は次のように言ってます。
 
  • 保険料と保険金に等価の関係がなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないので、実質的に非相続人の財産に属していたと見ることもできない 
 結論は、特別受益にもならないよということです。 
 
 誤解がない程度に判りやすく言えば『保険金は受取人のもので、相続財産ではない。よって相続財産の配分を考えるときに入れなくて(考慮しなくて)いいよ』ということになります。
 
ただし「特別受益」を考える際には条件があります。
 「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が、903条の趣旨に照らし到底是認することができない程に著しい特段の事情がある場合について』例外として、903条の類推適用によるもち戻しの対象となることを認めています。
 
特別受益者の相続分)第903条
 
1.共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
 
2.遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
 
3.被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
 
 この『特段の事情』というのが、どうもすっきりしないのですが、極端な例をあげると、『相続人としてA.B.C.D.の4人がいるとして、被相続人の介護をA~Cでずっとやってきて、その死亡後、被相続人に財産がなく、放蕩三昧だったDを保険金受取人とする、5000万円の保険があった』などといった場合などでしょうかね。
  
 判決に対し、持ち戻しが相続財産かどうかの肯定・否定の論争ではなく、実務上ではむしろ裁判ごとに『特段の事情』とみなしてもらえるかどうか、そこに焦点が移っているというのが実状です。
 『特段の事情』で『保険金』がもち戻しの対象になるのであるならば、遺留分減殺請求権の対象にもなるのかどうかも議論になってまして、今後の裁判での判決の蓄積が俟たれます。しかし『相続税』となると話が変わってきます
 
 
 民法上『保険金』は『相続財産』ではない。ということなのですが、ややしいことに相続税の課税財産にはなるのです。
 
これを『みなし相続財産』といいます。
相続財産ではないけど、「相続財産とみなす」。だからみなし財産。
 
(((( ;゚Д゚)))えっ!
よくわからないんだけど、相続財産じゃないけど相続税???
 
相続税法(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)
 
第三条 
次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十九条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
 
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分
 
判りやすく言うと次の通りです。 
  • 保険契約者・保険料負担者:被相続人
  • 被保険者(死亡の対象となっている人):被相続人
  • 保険金受取人:相続人や第三者
  こんな契約をした人は、相続税を計算するうえでの財産としていれてくださいね、ということなんです。
 
相続税の非課税財産)
第一二条 
次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。
 
一~四省略
 
五 相続人の取得した第三条第一項第一号に掲げる保険金(前号に掲げるものを除く。以下この号において同じ。)については、イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、イ又はロに定める金額に相当する部分
 
イ 第三条第一項第一号の被相続人のすべての相続人が取得した同号に掲げる保険金の合計額が五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(ロにおいて「保険金の非課税限度額」という。)以下である場合 当該相続人の取得した保険金の金額
 
(遺産に係る基礎控除
第一五条 
相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺増により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格(第十九条の規定の適用がある場合には、同条の規定により相続税の課税価格とみなされた金額。次条から第十八条まで及び第十九条の二において同じ。)の合計額から、三千万円と六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除する。
 
2 前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人の教(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数とする。)とする。
 
一 当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
 
二 当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人
 相続税の計算をする上で、青字が民法赤字が相続税法のルールを使用しろ、ということです。
 
 ただし保険金全額が課税財産に当たるのではなく、いくらか引くことができます。しかしその計算をするのに、民法の法定相続人のルールと、税法上の特別ルールを混在して計算しなきゃいけないので、何がなんだかわからなくなってきた・・・となるのです。
 
俗にいう『法定相続人の数×500万円』のそれです。
 
それでは以下で、実際相続税の課税対象となる保険金の計算をしてみましょう。
 
 
【Q1.】
被相続人(夫)死亡に伴い、生命保険金を妻が40,000千円、子が10,000千円受け取った場合の課税対象となる金額は?。なお、法定相続人は妻・子の2人とする。
 
【A1.】
非課税限度額:(5,000千円×法定相続人2人)=10,000千円
そしてその非課税限度額をそれぞれもらえる保険金の比率に応じて按分します。
妻:40,000千円×10,000千円/50,000千円=8,000千円
子:10,000千円×10,000千円/50,000千円=2,000千円
 
【課税対象となる金額】
妻:40,000千円-8,000千円=32,000千円
子:10,000千円-2,000千円=8,000千円
 
では以下のようなケースは如何でしょうか?
 
 
【Q2.】
被相続人(夫)死亡に伴い、以下のように生命保険金を受け取ったとする。それぞれの課税対象となる金額は?
 
妻:20,000千円
子A:10,000千円
 ※妻の連れ子。夫と妻の婚姻に反対。夫との養子縁組を拒絶。
  夫と養子縁組していない。
子B:10,000千円
 ※妻の連れ子。夫と養子縁組している。
子C:10,000千円
 ※妻との子。著しい非行により推定相続人から排除されている。
子X:10,000千円
 ※夫の前妻との子。離婚時に前妻と暮らすことになった。
子Y:30,000千円
 ※夫の前妻との子。離婚時に前妻と暮らすことになった。相続放棄予定。
 
【A2.】
 まず、手順として非課税限度額計算に使用する『法定相続人』の数を確定させなければなりません。
 
妻:○ 法定相続人です。 
子A:✖ 養子縁組していないので、法定相続人ではありません。
子B:○ 養子縁組しているので法定相続人です。
子C:✖ 相続『廃除』となっているので法定相続人ではありません。
子X:○ 法定相続人です。『居住形態』に関係なく『子』であることがポイント。
子Y:○ 法定相続人です(法定相続人だから『放棄』できる)。
 
法定相続人は4人
 
そして、相続税法上の、
 
一 当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
 
二 当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人
 
 これにより法定相続人は4人で確定。
 よって非課税限度額は、(5,000千円×法定相続人4人)=20,000千円
 
 さらに、その非課税限度額をそれぞれもらえる保険金の比率に応じて按分します。ここで注意しなければいけないのは、前問と違い相続税法『非課税限度額を使える人と使えない人がいる』ということなのです。
こちらのポイントは『保険以外の実際の相続人にあたるかどうか』という点です。
 
妻:〇 非課税限度額が使えます。 
子A:✖ 養子縁組していないので、使えません。
子B:〇 養子縁組しているので使えます。
子C:✖ 相続『廃除』となっているので使えません。
子X:〇 非課税限度額が使えます。
子Y:✖ 相続を放棄しているので使えません。
 
個別の非課税限度額:
非課税限度額 × その相続人が受け取った保険金の額 
/相続人全員の保険金の額(非課税限度額を受けられるもの)
 
妻:20,000千円×20,000千円/40,000千円=10,000千円
子B:20,000千円×10,000千円/40,000千円=5,000千円
子X:20,000千円×10,000千円/40,000千円=5,000千円
 
【課税対象となる金額】
妻:20,000千円-10,000千円=10,000千円
子A:10,000千円
子B:10,000千円-5,000千円=5,000千円
子C:10,000千円
子X:10,000千円-5,000千円=5,000千円
子Y:30,000千円
  となります。
  
 ちなみにこれは、相続税の計算をするときのみなし相続財産である『保険金』課税金額を計算するためのものです。
  この金額にそれぞれが相続するほかの財産を足して債務控除をし、税率をかけてそれを足し合わせて、合計の税額を実際受け取った金額で再度按分して…それぞれから税額控除を考慮して…とまだまだ計算は続くのです。
 
 いくつか注意点があります。それは相続を廃除された『子C』に代襲相続が発生している場合(例えば子Cの子「孫Ω」がいるetc……)で、保険金が受け取れる場合は、非課税限度額を計算する際の、法定相続人の数に加算します。『欠格』『廃除』は、代襲相続が可能だからです。もちろん個別に非課税限度額も使えます。なお、相続放棄では代襲相続は認められません。
  
 また『死亡保険金』の種類によっては、ほかの税金に当たるケースがあります。
保険料負担者:相続人A
被保険者(生死の対象となっている人):被相続人
保険金受取人:
A【所得税
A 以外の相続人 or 第三者【贈与税】
などがそれです。
  
 また【Q2.】のケースでは、受け取り保険金の配分が些かおかしいの(不公平)ではないか?と、思われた方がいらっしゃると思います。これも民法上では『死亡保険金』は相続財産でなく『固有の権利』なので、それぞれが受忍するしかなさそうなのです。
  尤も、こういったことが『相続』ならぬ『争続』のきっかけになったりするのですが。
 
【追記】
 以下の契約形態の保険契約の場合は注意が必要となります。
保険契約者:誰でも
被保険者:相続人や第三者
保険料負担者:被相続人
保険金受取人:被相続人
 この場合は『本来の相続財産』として『解約返戻金相当額」が遺産分割協議の対象にもなり、相続税の計算上の財産にもなります。何故ならば、このような契約は被相続人が死亡した段階で、保険料一括払いでなければ保険料負担を誰かが続けない限り、保険契約が継続することはなく、相続人が解約返戻金を受け取って解約するのが通常と考えられるからです。