1ヶ月更新していませんでした(^_^;)。
配偶者や子、場合によっては両親等の相続人には『遺留分』があります。兄弟姉妹にはありません。『遺留分』とは、「財産をすべて愛人に」といったような遺言書がある場合に、法定相続人が財産の一部を貰えるよ、ということです。
遺留分と似たような概念で『持戻し』というのがあります。
これは遺留分とはまったく違う概念なのですが、意外に混同されている方が多いようです。
『持戻し』は、被相続人が生前、特定の法定相続人に財産を贈与したものを「相続財産」として考えて、遺産分割協議の対象とする、というのがいちばん判り易い説明になりましょうか。
そうすると、少し知識をお持ちの方からよく次のような質問を受けます。
「被相続人が亡くなる3年前の贈与は遺産分割協議の対象外ですよね?」
これは「税制上」のお話です。相続税を計算するうえで、直近に納税した贈与税の還付と、相続税計算の簡便さをはかることを考慮したもので、分け前である「民法上」のことではありません。
結論から言えば、何年前でも法定相続人に贈与したものは、「特別受益」とされ、民法上の『持戻し』の対象になるということです。婚姻・養子縁組・生活の資本の財産がこれにあたります。
しかし、被相続人が遺言書等で「持戻し免除」の意思があればそれは有効になります。つまり遺産分割協議での相続財産にはならない、ということです。
ならば、ここでちょっと知恵を働かせて、次のように考えることができないでしょうか?
- 被相続人Xには子A1~A3がいる
- A1に2,000万円の生前贈与があり、遺言書で持戻し免除の意思表示がされた
- X死亡時の相続財産は300万円
- 遺言書で300万円を法定相続分で分けるとある
- なので、A1・A2・A3の相続分は100万円/人
A2・A3 ☛ (`Δ´)!んなアホな
になりますよね。結果的に、A1は生前贈与含めて2,100万円手にしているわけですから。実際このようなことが裁判で争われたことがあり、そこで次のように示されました(決定)。
1 遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される。
2 特別受益に当たる贈与についてされた当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の被相続人の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合,当該贈与に係る財産の価額は,上記意思表示が遺留分を侵害する限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。
先ほどの事例で実際計算してみます。
A1:A2:A3の相続財産からの指定相続分=100万円:100万円:100万円
A2、A3の遺留分=1/6
A:の生前贈与2,000万円×1/6≒333万円
A1=2,000万円-666万円+100万円=1,434万円
A2・A3=333万円+100万円=433万円
となります。
「持戻しの免除」なんて意味ないじゃんヽ(`Д´)ノ…そう考えた方もいらっしゃるとは思いますが、ここで遺言書で持戻しの免除がされていなかった場合、A1への生前贈与2,000万円が「特別受益」とされ、相続財産として計算された場合、法定相続分で分けることで、全員がひとりあたり約766万円となり、何のための生前贈与だったのか?ということになります。
※実際はこれだけ取得できません。家裁実務上の話は以下の投稿をご覧下さい。
遺留分減殺請求権と特別受益の持戻し 其のⅡ. - FP事務所のんだら舎/行政書士新山文敏事務所 ブログ通信
今回は非常に簡単なケースで投稿してみましたが、今後予定されている相続法改正では、遺留分の算出も条文に規定されることになってます。
悩ましいものとして、
等の学問的なお話があります。これは次の機会にということで。
ちなみに、相続法の改正により、遺留分算定の基礎となる財産で相続人の特別受益となる生前贈与につき現在の「無限定」から、原則として「相続開始前10年以内の生前贈与」となることが予定されています。
*1:以前はそのように論じられることが多かった。信託契約における信託財産が持戻しの対象となると「受益者連続信託」等の信託設定では、信託契約自体の意義がなくなってしまうと考えられたからである。最近は信託財産も持戻しの対象として、信託財産には委託者の「持戻し免除の意思の推定」があるとするのが妥当とも考えられている。また信託財産ではなく「受益権」が持戻しの対象となる、という主張もあり、裁判事例がないことから、断定的なことが言えないのが現状