FP事務所のんだら舎のブログ

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いまさらながら(´(ェ)`)…戦前の相続法

【2018.9.23/2018.9.24 の一部修正】

 

 ガラリと内容を変えて…というか、いつもマイナーなネタばかりですか、本日はおそらく更にマイナーの中のマイナー『戦前の相続法』はどうだったのか?という内容を投稿してみたいと思います。

 法律も環境も違う今では、実務上でもこの手の話は一般には触れられることはないのですが、司法書士さんとかですと、曾祖父さん名義の登記の土地をいまさら誰かのものにしたい…などという依頼を受けた場合などにはよく出てくる話なのです。

 私は司法書士ではないので、かるく触りだけですが、カキコさせていただき、そうですね、皆様が『横溝正史』などの小説を読んだ際に、人間(親族)関係を理解する上で「あ~こういうことだったのか( *`ω´)」と納得していただけたらなぁ…と、まあそんな程度の内容に終始致します(意味不明)。

 

【いまの相続法との違い】

 現在の相続法と違い、戦前の相続法は『家を守る』ことに主眼が置かれていました。横溝正史風で言えば「(本陣)一柳」や「本鬼頭(本家)・分鬼頭(分家)」といった感じで、とにかく家として代々後世に繋いでいかなければならない、という前提のものでした。

 戦前の相続法は現代でトラブルのもとになっている財産的な『遺産相続』の他に、家督相続』という概念が在り、この二本柱で構成されていました。

 

 よく高齢の方とお話すると「昔は長男が財産をすべて引き継いだんだよなぁ~」と仰られる方もいますが、実は戦前の遺産相続の規定では、

となっており、必ずしも財産を長男がすべて引き継ぐわけではありませんでした。

 しかしながら、

  1. 結局は家督相続で長男が戸主になる
  2. 『家』の財産が分散するのを防止する*1

などから、財産を長男に相続させることが都合が良かったのです。

 ちなみに、第一順位のみ数人の相続人がいる場合、各相続分は同等で、代襲相続無制限となっていました。

 実は意外なことに遺留分の規定も戦前から在りました。ただこれは現在の「個人的な権利」というよりは『家』を残すために、財産を赤の他人に渡さないようにするものという意味合いが強いものでした。

 そして今はなき法律上の「禁治産」という表現(平成まで残っていた制度)も、財産が『家』から出て、他人に渡ることがないように「家督として財産を治められない人」といういわば『排除』の意味合いで規定がされていたのです。

 閑話休題

 遺産相続の順位のなかで、皆様が気になるのが、恐らく第四順位にある「戸主」だと思います。気になってもらわないと話が進まないので、ここでは気になっていることにしますが、この戸主の概念がいわゆる「家督相続」の規定なのです。

 

 「戸主って長男かその兄弟だけじゃないの???」

 

 実は、この戸主は戦前の『家督相続』という意味合いでの相続法で、重要な位置を占めているために、そっとやそっとで『家』がなくならないように*2する規定が複雑に存在していたのです。

 戦前の戸籍が『戸主』を筆頭に叔父さんまでが戸籍に載っている理由も、家督相続の概念お延長上にあるのです。

 

  

家督相続】

 現代相続法と大きな違いは、この「家督相続」の規定があることです。当時の「戸籍」と連動したもの(家≒戸籍)と考えていただいたほうが判りやすいかもしれません。

 旧(以下当時のという意味合いとする)民法964条によれば家督相続は次のいずれかの事由によって開始します。

  1. 戸主の死亡、隠居又は戸籍の喪失
  2. 戸主が婚姻又は養子縁組の取消しによってその家を去ったとき
  3. 女戸主の入夫婚姻又は入夫の離婚

 1.の「隠居」ですが、いまと違い死ぬ前から家の権利義務を承継させることができたのです。現在の戸籍で言うならば、両親(筆頭者)が死ぬ前から、子自身が筆頭者になるということです。

 3.ですが「女戸主」は後に説明するとして、「入夫」とは女戸主の家に嫁いできた男をいいます(この場合婿養子とは限りません)。「女戸主」になるということは、その家に男がいないということで、家を維持するためには、他の手段としては男子の養子をとる手段しかありません。

 ちなみに女戸主は男子に恵まれない家の「長女」がなることが多く、旧民法では男子の養子がいない場合、長女は他の家に嫁ぐことはできないとされていました。

 また、家に男子がいる場合は、男子の養子縁組もできませんでした。

 

家督相続人となるもの】

  • 第1順位 第1種法定家督相続人
  • 第2順位 指定家督相続人
  • 第3順位 第1種選定家督相続人
  • 第4順位 第2種法定家督相続人
  • 第5順位 第2種選定家督相続人 

 赤字はきめ(選定)なくても、法律で確定するものです。

 

【第1種法定家督相続人】

 直系卑属がこれにあたります。男子が優先なのは言うまでもありませんが、ややこしいのは、非嫡出子がいる場合です。

 非嫡出子は庶子「私生子」に分かれ、前者は父が認知したもの、後者は認知されていないものです*3

 庶子であれば、嫡出子である女子より優先されます。

 また男子の場合で、長男が死亡し家を引き継ぐために、養子になって家を出ていった二男が縁組を解消し、家に戻ってきた場合は、家に残っていた三男より優先します。

 しかし、分家で家を出た二男が、廃家しまた元の家に入家した場合は、三男が二男を優先します。

 また、長男に男子があった場合は、二男がいても、その子が戸主になります。これが所謂「戦前の戸籍には、自分のおじさんが記載されている」というものになります。

 婿養子が絡むとさらにややこしくなります。婿養子とは女子の家に男子が嫁いでくる(入夫)ことですが、あくまで婿養子が順位を優先するのは男子がいない時であり、その家に男子が生まれれば、生まれた男子(長男)が優先します。

 また、二女に婿養子があっても、長女がいる場合で、長女に夫がない場合も長女が優先します。これは長女が他の家に嫁ぐことができない裏返しでもあります。二女の婚姻後、長女に婿養子をとることとなった場合は、その婿養子が長女に優先することになります。

 ちなみに、家が男子の養子をとり、家の嫡出女子と婚姻することは、家の財産の拡散防止のために当時よく行われました。この場合は婿養子とは言いません。戦後この名残が現行民法734条 [近親間の婚姻の禁止] の例外の解釈としてあがりますが、話題が逸れるため、その学問的なお話は、次に譲ることとします。

 

【第2順位 指定家督相続人】

 第1順位がいない時は、戸主自身が家督相続人を指定することができます。これは戸主の隠居や、生前戸主が死亡した時のことを考えてするものですが、意外にも誰を指名してもよいことになっております。が、先にも書いたとおり、家の財産が分散することを恐れた当時は、あからさまにその効果がない者を指名することはありませんでしたし、他の家に入った者を指名したときは、その者が他家を適法に去ることができなければ効果は発生しないことになっていました。

 また家督相続人指定後に第1順位があることになった場合、指定は失効し、その後また第1順位がいないことになった場合は、再度指定をしなければいけませんでした。 

 

【第3順位 第1種選定家督相続人】

 第1順位もなく、戸主による指名もなかった場合、 第1種選定家督相続人を検討することになります。これはあくまで『事後選定』であり、選定後家督相続開始時に遡り家督相続人になるもので、自動的に定まるものではありません。

 選定といっても好き勝手に定められるわけではなく、選定者は相続人の父、父がない時、父が意思能力がないときは母、父母がない又は父母ともに意思を表示できない場合は親族会*4が選定することになっており、また家督相続人の選定順序についても次のように定められていました。 

  1. 家女である配偶者
  2. 兄弟
  3. 姉妹
  4. 家女でない配偶者
  5. 兄弟姉妹の直系卑属

 「家女である配偶者」とは、婿養子である戸主が死亡した、その妻(その家に生まれた女子)のことです。

 「家女ではない配偶者」とは、通常婚姻の夫婦で戸主が死亡した場合の配偶者や、入夫婚姻で夫婦のうち女戸主が死亡した場合の夫(入夫)のことです。前者は他の家からきた妻、後者は順位的に婿養子となっていなかった家女の夫、二女や三女の夫がそれに当たります。

 1~5.は順序が決まっていましたが、それぞれ(2.3.5)では年長者の順や、嫡出か非嫡出かは問われなかったので、例えば3.では二女ではなく三女を選定することもできました。

 選定には、こうでなければならないといった特段の様式もなく、選定者の一方的な選定で効力を生じ、承認によって家督相続開始時に遡って家督相続が開始し、その後、選定を証する書面を持って、戸籍に家督相続届をすることになります。

 

第4順位【第2種法定家督相続人】

 第1順位がなく、第2の指定、第3の選定がなかった場合法定で「直系尊属」が家督相続人となります。ただし、戸主の直系尊属であっても、家が異なる場合は家督相続人とはなれませんでした(適法に戸主の家に入る必要がある)。

 また、家に養父と実父がいた場合、その家が戸主である被相続人にとっての養家であれば、養父が優先して家督相続人となりました*5

 

第5順位 第2種選定家督相続人

 上記1~4.の順位すべてに当てはまらない場合でも、裁判所からの許可で親族会を開催し、家督相続人を選定することができます。家の断絶を回避するため、他家にいる親族からだけではなく、一定の場合には家督相続人に選定できる仕組みになっていました。ただし、第2種選定家督相続人は、『戸主である被相続人の家族である必要はないが、親族、家族、分家の戸主又は本家若しくは分家の家族、あるいは他人から、親族会は、その者の性格、行為及び身体等の状態から、家名を汚し、又は家政をとるに堪えることが出来るか否かを基準として選定するもの*6とされています。

 

 以上が選定されない場合、または選定後の承認がない場合はその家は『絶家*7』となりました。

 

 駆け足で戦前の相続法…主に家督相続ですが、投稿させていただきました。ある程度でもこのような知識があると、昔の戸籍を見たり、横溝正史の小説を読んだ際、その人間関係がスムーズに理解できたりするのではないでしょうか。

 

 

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  横溝正史木乃伊の花嫁』より

 

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戦前では『長男』が画像のように病気で倒れても『家』が守れるような色々な規定がありました。

 

gyouseifp1987.wixsite.com

*1:親族間のいわゆる「近親結婚」もそれが目的だったことが多かった

*2:家が意思に関わらず途切れることを『絶家』と言った

*3:これらの表現は差別的とされ、現在の戸籍では「男」「女」という表記に変更されている

*4:単なる親族の集まりではなく、旧民法で定められた一定に事項につき決定する必要が生じる都度、本人、戸主、親族の請求によって裁判所が招集し裁判所が選任した3人以上の親族会員によって構成され、その過半数の賛成で決することとなる重要な機関

*5:家に養子となった子で、後に実父がその家に入家するなどがそれに当たる

*6:大判大13.10.15

*7:戸主等の意思なく家が途絶えること。戸主の意思があり家が途絶える場合は「廃家」という