FP事務所のんだら舎のブログ

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民事信託と遺留分①

 ご無沙汰です。

 久しぶりの投稿にして、久しぶりのシリーズ投稿。題して「民事信託と遺留分」。今回は「民事信託は遺留分の対象となり得るか?」。

 次回以降として、「遺留分減殺請求の相手方」「遺留分侵害額の算定」「遺留分減殺請求権行使の効果」「相続法改正による遺留分侵害額請求権にかわることでの影響」そして、信託と遺留分減殺請求に関する初めての判断でもあった「東京地裁での9月判決の簡単な紹介」を投稿していこうと思います。1ヶ月に一度くらいのペースになると思いますのであまり期待しないでくださいσ(´┰`=)。

 また、投稿内容は個人的な見解に基づくものも多くあり、一切の責任は負いかねますので、あくまで自己責任でお読み下さることをご容赦願います。

 

 

【民事信託は遺留分減殺の対象となり得るか?】

 被相続人(委託者)の信託設定行為がなければ相続財産を構成した財産について、遺言信託、遺言代用信託を設定し、これにより受益者にその利益を無償で享受させる場合、その信託設定は遺留分減殺の対象となり得るか?

 改正前現行民法1031条の「遺贈または贈与」につき、広く無償の処分行為全般を指すと解すれば、肯定することになる。

 

『遺言信託』

遺言によって信託を設定する方法(信託法3条2号)。「遺言」によって行われることから、遺留分減殺の対象となるという点で比較的受け入れやすい。

 

『遺言代用信託』

 委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託(信託法90条1号)のことであり、委託者が信託を活用して遺言の代わりに財産の承継について規定し設定した信託を一般的に指す。民法上の「死因贈与」に近いものである。

 信託を設定した段階では委託者(被相続人)は生存しているが、信託財産は生存時に委託者から流出しており、その委託者の死亡時の相続財産に属さないことや、受益者は委託者の受益権を承継するのではなく新たに発生する受益権であることから、生命保険金*1と類似する要素が在り、それを強調して民事信託の黎明期には、「遺留分減殺請求を回避できるスキーム」と謳われていたものである。

 

『受益者連続信託』

 委託者が生前は受益者となるが、委託者死亡後も受益者を設定し、30年経過した時以後に現に存する受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、有効な信託である。民法の跡継ぎ遺贈(民法上の後継ぎ遺贈は否定説が有力)の代替的な役割を果たすものとして、期待されているものである。

 しかしながら税制上の制約や、遺留分減殺に関しての捉え方の違いで、利害関係者の主張が対立しやすく、今後尤も裁判が増えることが予想される信託契約だとも言える。詳しくは次回以降で解説。

 

『契約による信託』

 委任に近いかたちであり信託契約という(信託法3条1号)。「委託者=受益者」で生前より信託の効力が発生し委託者の死亡後に信託契約が終了するものが多い。信託財産が受託者に流出しているが、信託契約終了時の残余財産は、帰属権利者の定めがなければ「本来の相続財産」として評価されるため、遺留分減殺の問題よりもむしろ帰属権利者に対する「持戻し」の問題がある。

 

結論:

 結局のところ、遺言代用信託では『減殺の対象とはならない解釈』も強調できるところではあるが、銀行実務上では遺留分を侵害する信託の引受は訴訟回避のためにも絶対行わないことから、信託全体的として遺留分減殺の対象となりうる前提で考えることがベストであると言える。

 

 ちなみに、

 遺言信託に対する遺留分減殺があった場合の法律関係は受託者の地位が消滅して信託も終了するのか、受託者が管理する信託財産が一部遺留分権利者に移転して残りの信託財産についてだけ信託が継続するのか、受託者が管理する信託財産の範囲は変動せずに受益権と信託終了後の残余財産権利帰属者の地位が一部遺留分権利者に移転するのか、遺留分権利者に移転する具体的分量はどのように算定するのか未解明である。

と、問題点を指摘した裁判例*2がある。

 

 次回以降は「信託における遺留分減殺請求権」の問題点、そして相続法改正で「遺留分侵害額請求権」に変わることでの影響について書きたいと思っています。

 

(つづく)

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*1:養老保険における死亡保険金請求権。最判平16.10.29

*2:東京高判平28.10.19