『遺言書』を作りましょう!…と言われても何かねぇ…書く方の心情はごもっともです。自分が死ぬ話ですもの、世捨て人でもあるまいし、気が引ける想いはよくわかります。書きたくなきゃ書かなくてもいいと思います。こんなこと言っているからお客様が増えないのですね(自虐)(^_^;)。
『遺言代用信託』なるものも最近は流行りで、うちのメイン業務でもありますが、今日のお話では割愛します。
今回は遺言書を書いておけば、すべてが必ず安心というわけでもないというお話です。
【遺言書の形式に不備がないか?】
遺言書は基本『日付』『判子』『署名』があれば形式的にはOKです。もちろん文面は必要ですが(笑)。判子は実印でなくても構いません。寧ろ『日付』が重要になります、これはあとでもお話します。
紙も指定がありませんので、極端なことを言えばカレンダーの裏でも構わないのです。とはいえ公正証書遺言ならともかく、そんないい加減な用紙に書かれたような自筆証書遺言などは、家庭裁判所での検認の際に、疑念を持たれることを覚悟しておく必要があります。
【内容に不備がないか?】
「遺贈する相手に相続させる文言*1」程度であれば、遺言書が無効ということはないのですが※注*2、「残りの財産を冬子(四女)に任せます」のような「財産を冬子に相続させる主旨」の遺言なのか、「遺言執行人(遺言の書いてあるとおり分ける人)に近い立場として財産の帰属先を決めてくださいな」という主旨なのか、で解釈が分かれるような内容の遺言書ではいけません。
押さえておくべきことは、まあ大体上記の通りなのですが、 とすると以下のような疑問もわいてくるかと思います(きませんかね?)。
【遺言書に書かれている財産がない】
それは取り消したことになります。また、これにより遺言書すべてが無効というわけでなく、書かれている財産については遺言書の通りに相続することになります。
【遺言書に消された文言がある】
自筆証書遺言でたまにありがちなのがこれ。遺言者が新しく作り直すのが面倒くさかったのか、作為的に誰かが手を加えたのかはわかりませんが、二重線等で消された文言があるケース。ただ二重線で消されていても判子が押されていないならば、消されていなかったこととされます(遺言書の形式的不備として)。
問題は「墨で黒塗になっていた」などです。こうなるとそこに何が書かれていたのかは判断できませんので、遺言書の中身が自分に不利な立場の人からの遺言書自体の無効を申し立てられることは、覚悟しておいたほうが良いと思います。
【検認を受けていない】
自筆証書遺言等の場合は、家庭裁判所に遺言書の「検認」を受ける必要があります。検認を受けないと「過料」に処されます(民法1005条)。これは遺言書の有効・無効を判断するのではなく「間違いなく遺言書ですね」と確認するものになります。遺言書と確認されただけなので、のちのち無効にもなるということです。例えが適切かどうかはわかりませんが、「江戸時代の名主の宝の箱と確認されたが、いざ箱を開けてみたらガラクタしかなかった」というようなものです。これも結果的にガラクタしかなかったわけで『宝の箱』だったことには間違いありません。
また、検認を受けていなかったからといって、遺言書が必ずしも無効ということにはなりませんが、先に述べたとおり、財産分与のおこぼれに預かれない者からの遺言書の無効(偽造された遺言書ではないか?など)を申し立てられる恐れは多分にあります。
【遺言書が2つある】
最もトラブルが多いケースです。遺言書が2つある場合は、日付が後の遺言書が有効になります。今ではネットなどの情報で皆さんが知っているのでさほど言われませんが「実印の方が有効」「公正証書遺言が一番強い」などという、なんだか信じてしまいそうな都市伝説を聞いたことがあろうかとおもいます。
そんなことはありません。公正証書遺言より日付が後で、新聞広告の裏にミミズの這ったような字で署名され三文判を押しただけの自筆証書遺言書が存在した場合、後の日付の遺言書が有効になります。
尤もこのような場合、後の遺言書の無効の訴えを起こされれば『争続』につながります。
仮に遺言者が後の遺言書を書いていなかったとしても、後日付の遺言書を作成したと思われる利害人から「オヤジは死ぬ前は病気で体が弱っていたのでこんな字になったのでは?」「実印を失くしたんじゃないか?」「体が弱っていたので公証役場まで足を運べなかったのではないか?」「公証人に来てもらえるなんて知らなかったのではないか?」などと、鉄面皮で主張されたならば、納得させられてしまいます。本当のところの確認はしようがないですから。
以上、駆け足で簡単に書きましたが自筆証書遺言・公正証書遺言どちらを作る際にも、第三者に相談をしてあらゆるリスクを想定しておくことが大事です。さもしい世の中なのですがそれが現実なのです(;>_<;)。
「遺言書」の中身は判らないが、存在は知っている…そういう者達が後日、自分に都合がよくなるよう話し合って対応を画策することは、実はよくあることなのです。