『愛人』に全財産を遺贈する
突然ですが、こんな遺言が出てきたとしたら、妻・家族はどう思いますかね。
よく90年代後半までのテレビの2時間サスペンスでよくありそうな話ですが、果たしてこんなものは有効なのでしょうか?
また、そもそもこのような内容の遺言書を作るとしたらどういう手順がとられると考えられるでしょうか。
【手順】
①公正証書遺言にする
公証役場で愛人に全財産を譲る旨の遺言書を作成する際には、公証人からのちのち面倒なことになりますよ、と説得される可能性が高いので、おそらく遺言作成者はこのような手順は採らないと思います。ということは、この件についての行政書士の出番はないということです(自虐(^_^;))。
②自筆証書遺言にする
まあこれが妥当なところだと思います。問題はその遺言書をどうするか?家族に預けるなんてナンセンスですし、死んだあと勝手に開封され、家族に都合の悪い内容であれば遺言書自体、闇に葬られる可能性大です*1。
ということで、おそらくこの手の遺言は『預け先』に困ることになろうかと思います。この手の預かり先は、昔は弁護士が主流でしたが最近では、遺言書を含めトータルで金融機関がパッケージ化して受託する商品などもあります*2。
【愛人に全財産を譲るは有効か?】
ほかの法律行為と同じく、公序良俗や強行法規に反する内容の遺言は無効です(民法90条)。
だからといって愛人に財産を譲る遺言が完全に『無効』かどうかというわけではありません。
妻子のある男性がいわば半同棲の関係にある女性に対し遺産の三分の一を包括遺贈した場合であつても、右遺贈が、妻との婚姻の実体をある程度失つた状態のもとで右の関係が約六年間継続したのちに、不倫な関係の維持継続を目的とせず、専ら同女の生活を保全するためにされたものであり、当該遺言において相続人である妻子も遺産の各三分の一を取得するものとされていて、右遺贈により相続人の生活の基盤が脅かされるものとはいえないなど判示の事情があるときは、右遺贈は公序良俗に反するものとはいえない(最判 昭61.11.20.)
つまりは、
- 不倫関係継続の目的ではない
- 相続人の生活基盤が脅かされない
ときは、愛人に財産を譲る旨の遺言書も有効としているのです。
「相続人の生活基盤が脅かされない」という点で、東京地裁昭和63年11月14日判決では公序良俗に反し遺言書を『無効』としていますので、愛人関係の強弱だけで公序良俗に反するか否かという判断をしていないようです。
愛人に財産を譲る方法としては、完全に無効ではないにしろハードルが高いと言えますので遺言書を書くという選択肢だけでなく、完全に婚姻関係を解消して、愛人と再度入籍するなどしておくことなども考慮する必要があるのかもしれません。橋幸夫ではありませんが(最後意味不明)。
愛人と正妻の修羅場は大方こんなことになりがちです。こうなる前に対策することが大事なのですね。