FP事務所のんだら舎のブログ

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相続財産における生命保険の取り扱い 其のⅡ.

 前回は、生命保険の受取金は相続財産なのか?

 結論として受取人が指定されていれば『固有の財産』であるため相続財産とならない、と書きました。

 ところがこれで、めでたしめだたし…といかないというのが今回のお話です。

 

Q.『固有の権利』となる死亡保険金は相続財産ではないので、遺留分減殺請求の対象にもならないのですよね?

 

A.何とも言えない。

  

 民法上では特別受益の持戻し(903条)』の規定があります。

 これは、共同相続人の中に、被相続人から不動産等を贈与されているものは相続財産に組み入れて(戻して)分け前を計算してくださいね、というものです。

 ここで、よくご相談に来られる方が間違えられている点があります。

  1. 『3年以上前の財産は組み入れなくていいんだよね( *`ω´)』
  2. 『1年以上前の財産は組み入れなくていいんだよね( *`ω´)』

 前回もお話しましたが、今はネット時代。タダで情報が入ることもあり、中途半端なところまで知識があって、お金をけちってそれに基づき行動してしまった結果、とんでもないことになり、結局弁護士、税理士に頼むことになり高くついた・・・トホホ、というのはよくあるケースです。しかもマスコミもそちらに誘導する気配があります。

 

 どうですかね?

 1.2.とも、どこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 

1.のケースは『相続税法19条①』のお話。

 3年以内の贈与者の死亡には、相続財産として組み入れて計算し、贈与時に贈与税を払っているようならば、還付してあげますよ(一般的に贈与税の方が税率・税額が高い)というものです。民法上の持戻しのことではありません。

 

2のケースは『民法1030条』のお話。

 

(遺留分の算定)

 第1030条

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。

当事者双方遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

 こちらは、相続人以外などへの『贈与』があったばあいの、遺留分算定のお話であって、持戻しとは関係のない話なのです。

 

  閑話休題。なぜ曖昧な回答しかできないのかといいますと、遺留分減殺請求の財産として生命保険金が入るのかどうかで、見解が分かれていることにあります。

 固有の財産としての生命保険金が、相続財産でないとすれば、相続の関係で受取人に指定された相続人は多額の保険金を受け取ることができるのに、ほかの相続人はわずかの相続財産の分配を受けるに過ぎない、という不都合が生じてしまいます。

 元々、保険契約者(被保険者)が保険料を払っているものであり、これは一種の『遺贈』ないしは『贈与』と考えていいのでは、という考え方もできます。

 

 まとめると以下、

  1. 保険金請求権の取得は固有の権利であるから結果的に保険金を受け取った相続人と、他の相続人との間で不公平が生じたとしても問題にしない。【固有の権利に重きをおく】
  2. 実質的な贈与・遺贈があったものとして、法が定めた遺留分の規定の主旨からもそれが適用され、受け取った保険金を取り戻されてもやむを得ない。【遺留分に重きをおく】 
  3. 特別受益があったとみなし、生命保険金を相続財産の前渡しとみなして、民法の規定によって計算する。【1.2.の折衷】

が考えられます。

 調べたところまだこのような事案での最高裁判例はないようです。

 遺留分減殺請求の話ではなく、その前段階の『死亡保険金請求権は特別受益となり持戻しの対象となるか?』という論点では、すでに『固有の権利』を理由として、考慮しないのが原則となっています(判例)。

 ただこれにつきましては『特段の事情』があれば、死亡保険金請求権を特別受益に準ずるものとして扱うとしていることから、この『特段の事情』を認めてもらうためにはどうすればいいのか?という点に実務上の関心が集まっていると言えます。

 暴論を承知で言えば理屈上は、特段の事情さえ認められれば、持戻しの対象となり、相続財産に組み入れられ、遺留分減殺請求権を行使することで、取り返すことも可能になります(民法903条)。なので固有の権利(財産)である死亡保険金が、遺留分減殺請求権の対象になるかな否かは、その前段階である『特別受益による持戻し』と認められるかどうか、にかかっているとも言えるのかもしれません。

 

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