FP事務所のんだら舎のブログ

たまに脱線アリ。いろいろな情報を楽しく発信していきます!

民事信託と遺留分②

 今回は「信託における遺留分減殺請求の問題点」として、信託契約上での遺留分の問題をややこしいものにしている点、それを個別的に触れていきたいと思います。

 また、投稿内容は個人的な見解に基づくものも多くあり、一切の責任は負いかねますので、あくまで自己責任でお読み下さることをご容赦願います。

 

 

【信託における遺留分減殺請求の問題点】

 

 信託において遺留分の問題を考えるにあたり、それを難しくしているのは信託の当事者構造が複雑な点にある。信託財産は受託者に帰属し、信託財産から発生する利益は受益者に帰属する。そのことで、遺留分減殺請求の対象は『信託財産』なのか『受益権』なのか、また遺留分減殺請求の相手方は『受託者』か『受益者』か、などという問題が生じてしまう。

 

 

  1. 遺留分減殺請求の対象

 

『信託財産説(信託行為設定説)』

遺留分侵害行為を信託行為そのものに求め、信託財産を遺留分減殺請求の対象とする見解。

 この説は、遺留分制度が遺留分権利者に現在かつ絶対の権利を保証しているのであるから、受益権ではなく、所有権を含む財産そのものが遺留分減殺請求の対象になる。遺留分減殺請求権を行使した結果、受益権(の一部)を取得することを、遺留分制度は想定していないとする。

 この考え方では「信託法制定そのものの枠組みを否定する」という批判があったものの、以前(改正信託法黎明期)では一定の支持を持つ説であった。

 しかし、今後予定される相続法の改正において、①「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」となり、立法で「債権的効果(物権的効果の否定・一般債権化)」となったこと、②金銭債務の履行に代え、例外的に遺贈または贈与の目的財産を給付すること請求できるとしていたものを結果的に、改正審理で例外を「認めない」点で決着したこと、などから理論的根拠の支柱を失い、古典的な相続法の考えに基づいたものとして、次第にその支持を失いつつあるのではないか。

 

『受益権説』

 遺留分侵害行為は、特定の相続人に受益権を付与する行為であり、受益権を遺留分減殺請求の対象とする見解。

 以前より税法の実務家や研究者に支持が多かった説。勝手な推測ではあるが「受益権概念」が、民法・信託法の研究や実務がメインである法曹関係者よりも、日頃馴染みが深い点において、その理由があると思われる。

 信託において、受託者が固有の利益を有していないこと(信託法8条)から、財産が受託者に移転することで利益を有するわけではなく、特定の相続人が受益権を取得することが遺留分を侵害するのであって、つまるところ信託設定行為が遺留分を侵害するのではないとする。

 信託法の法律効果を維持し、遺留分権利者の権利の確保を両立できる利点がある。以前は現行民法1031条の文理によって、この説への批判がされていたが、民法(相続法)改正により1031条は削除されることとなった。

 ただ、この説の最大の弱点は「受益権の評価」が明確になりづらいことにある。例えば受益者の「信託財産に居住できる権利(受益権)」や「信託財産で世話をしてもらう権利(受益権)」などの評価をどのようにするのか、課題が残る。

 

 

  1. 遺留分減殺請求の相手方

 

『受託者である』

 遺留分減殺請求の対象を信託財産とする立場から(信託財産説に馴染む)、信託財産の帰属主体である受託者が当然に相手方になると考える。

 

『受益者である』

 直接的に利益を受けた者が遺留分減殺請求権の相手方であることからすれば、遺言信託等によって直接利益を受けるのは、受益者であり、受益者を相手とすべきであると考える(受益権説に馴染む)。

 

『受託者+受益者である』

 遺留分減殺請求の対象の双方の説において、この考え方がある。

 

  • 信託財産説

 財産の帰属主体である受託者が相手方になるのは当然として、受益者を加えるのは、相続開始より前に信託が設定された場合において、受益者は相続人だが受託者が相続人でない時に、受益者を相手として遺留分減殺請求を行う必要がある*1

 

  • 受益権説

 受益者は当然として、受託者を加える理由として、受託者は遺言執行者と法的性格が似ているため、遺言執行者が遺留分減殺請求権の相手方になると解されていることとの均衡から、受託者も相手方となると主張されている。

 しかし、今後の相続法改正で、遺留分侵害額請求権として一般債権化になることをふまえ、遺言執行者は「遺留分侵害を理由とする金銭給付請求につき、その履行が遺言執行者の職務に属するとは言えないから、被告適格は認められない」*2との見解があるため、受益権説からの「受託者+受益者」という考え方は主張されなくなるのであろうか。

 

 

  1. 遺留分侵害額の算定

 

『信託財産説』

 信託開始時における信託財産そのもの価値である。そのため侵害額算定が受益権説と比較して容易である。

 

『受益権説』

 信託によって設定された受益権の価値を遺留分算定額の基礎とする。ただ、先にも述べたように「受益権の価値」そのものの算定が難しい。

 

 

  1. 遺留分減殺請求権行使の効果

 

『信託財産説』

 遺留分減殺請求により、信託行為自体が全部、又は、一部無効となる。信託財産について、遺贈や贈与が行われたと同様に扱うことになる。

 

『受益権説』

 信託設定行為自体は無効とはならず、遺留分権利者に一部の受益権が帰属することになる。

 

 

 5.減殺の順序

 

 遺言信託では「遺贈」、遺言代用信託では「死因贈与」として考える。また、被相続人の生前に信託が設定され、かつ、受益権者が受益権を享受していた場合、「生前贈与」として扱うことになる。

 ただし、「受益者連続型信託」について「遺言代用信託」で行われた場合の解釈がわかれている(次回以降で触れる)。

 

(つづく)

 

f:id:gyouseifp:20190303131253j:plain

【追記:こぼれ話 (-^〇^-)】

 私の事務所だけなのかもしれませんが(ーー;)、実務上は、遺留分を侵害しない信託設定での相談というのはあまりなく、結果的に、遺留分減殺請求のリスクを承知いただいて信託契約の相談にのるケースが多く、遺留分回避にならない点を説明すると、がっくり肩を落とされることがあります(;>_<;)。

 本来の意味での遺留分減殺請求を回避するために、信託目的を達成することに必ずしも必要としない財産は、信託財産としないことや、信託契約に不満を持つ相続人がいる場合には、信託契約の無効を主張された場合に備えて、遺言と併用を奨めたりと結構苦労します。

 ちなみに、信託における遺留分減殺請求の捉え方。私としては『信託財産説』を支持していたのですが、最近の法改正の流れや、信託における遺留分減殺請求に関する「東京地裁平30.9.12判決」で、遺留分減殺請求は受益権を対象にすべきとした原告の考え方を採り請求を一部認容した点、などから時代は「受益権説」に傾きつつあるのかなぁと感じてます。

 対象を「受益権」としながらも受益権として評価できない部分は無効として、信託契約自体は無効にせず、評価できない受益権を発生させる財産の部分の信託契約を無効とし、本来の相続財産として遺留分額を計算し解決を図った点で、画期的な判決だったと思います。この判決については、後日投稿を予定してますσ(´┰`=)。

 

gyouseifp1987.wixsite.com

*1:いわゆる1年前の贈与の起算点として通説では「契約時点」であって、行為の時ではないとされているため。参考:仙台高秋田支判 昭36.9.25

*2:法制審議会民法(相続関係)部会第9-19頁